茶道・薫物(香道)の
歴史を探究する

平安貴族の乗り物「牛車」

「牛車(ぎっしゃ)」は、平安貴族が使っていた一般的な移動手段です。しかし、日々の生活における移動手段であると同時に、どんなグレードの牛車を使っているかで乗っている人のステータスがはかられるという一面も併せ持っていました。

牛車とは、その名の通り牛が引く車のことです。人が乗る車輪がついた部分を「屋形」と呼び、前方には「軛(くびき)」がと呼ばれる木の枠がつけられ、そこに牛の首がかけられました。

現代の車と同様に、牛車にも様々な種類があります。

たとえば、平安時代に存在した牛車の中でも最高品質を誇る、いわゆる最高級車は「唐車(からぐるま)」という種類のものです。外観には華美な装飾が施され、屋形は個室のような作りになっており、乗り込み口はカーテンで仕切られ、中には窓も付いているものもありました。

唐車は、最高級車ですから、貴族の中でもほんの一部の上流階級の者のみしか乗ることは許されませんでした。具体的には皇族の方々です。豪華で快適ではあったものの、目を引く見た目であると共に乗ることのできる身分がとても限られていたため、誰がどこに向かったか周囲に知られてしまうといったデメリットもあったそうです。

少しグレードを下げると「檳榔毛車(びろうげのくるま)」や「糸毛車(いとげぐるま)」といった種類があります。こちらもかなりの高級車であったとされ、唐車には劣るものの、葉を利用して周りから中を見えなくするなどしてプライバシーが守られる構造となっていました。この檳榔毛車も、大臣など高い階級の貴族のみが乗ることができました。

中流階級の貴族らが乗っていた最もポピュラーな牛車は、屋根や側面が網代編みで造られていた「網代車(あじろぐるま)」と呼ばれる種類でした。

網代車はその中にもさらに高価なものと安価なものが存在します。牛車は維持費もかかるため個人で所有することは簡単ではありませんでしたが、貴族たちはできるだけ高価な牛車を、できるだけ複数台所有することをステータスとしていました。

現代でも高級車を所有し運転することは一種のステータスと言えますから、それと同じような感覚だったのでしょう。時代を超えても同じような発想をしていたと思うと、平安貴族の人々のことも身近に感じられますね。