茶道・薫物(香道)の
歴史を探究する

平安貴族の女性の象徴「大垂髪」

平安貴族の女性の容姿というと、引きずるほど長く伸ばされた美しい黒髪をイメージする方も多いのではないでしょうか。そんなイメージ通り、当時の女性たちは艶のある黒髪でとても長く伸ばすことが基本とされていました。この髪型のことを「大垂髪(おすべらかし)」と呼びます。

大垂髪は非常に長く垂らされた髪が特徴ですが、当時の絵巻物を参照するとおおよその長さが分かります。十二単を着た女性が座った際にその裾よりも長く描かれていることもあるほどで、平均で1メートルほど、中には身長を超す長さまで伸ばした女性もいたと言われています。そもそも、平安貴族の女性の美人の条件として、白い肌や切れ長の目と並んで長い黒髪も求められていました。そのため、髪は長ければ長いほど良いとされていたのでしょう。

ところで、現代のようなシャンプーなどのヘアケア製品は一切ない平安時代に、身長をも超える長髪をどのようにケアをしていたのでしょうか。

多くの女性は、「ゆるす」と呼ばれる米のとぎ汁を使ってお手入れをしていました。意外なように聞こえるかもしれませんが、米のとぎ汁をヘアケアに使うことは理に適っており、ゆるすにはセラミドなどの油分等が含まれていることからヘアオイルとして髪の毛のツヤを保つ効果があります。それだけでなく古い角質を吸着する効果もあり、毎日髪の毛を洗えなくてもある程度の清潔感を保つことができました。

このゆるすを櫛を使って長い髪に馴染ませていたのですが、いかんせん現代ではありえないほどの長さですので、日常的なお手入れにも一苦労でした。時には、一人の貴族女性に対して複数の女房がつき複数人がかりで髪を梳いていました。

他にも、就寝時には髪に癖がついてしまわないよう髪を箱に入れたり、匂い消しに香を入れた枕を髪に巻きつけたりと、さまざまな工夫をしていたとされています。

今も昔も、美しい髪は憧れの対象であり美人の条件。それを保つために陰ながら努力を重ねることに時代は関係ないのですね。