茶道・薫物(香道)の
歴史を探究する

平安貴族における乳児の育児

平安時代に産まれた貴族の子は、未来の社会を担う存在としてとても喜ばれました。しかし当時は現代のように出産に関する環境が整っておらず、新生児が無事に育つことは貴重なこととでした。そのため、無事に育ってくれるようにと様々な儀式が行われました。

出産が今よりもずっと母子共に命がけの行為であったことから、妊娠した女性に対しても様々な儀式や祈祷が行われ、無事出産してからも子供に関するさまざまな事柄が儀式として行われました。

例えば、へその緒を切ることも儀式として「ほぞの緒の儀」と呼ばれていました。以降も、初めて母乳を飲ませることは「乳付(ちつけ)の儀」、初めての沐浴をすることは「湯殿の儀」などと呼ばれ、事細かく儀式として規則や手順が定められており、それに則って行われていきました。その他にも、「虎の頭(とらのかしら)」とよばれる邪気祓いや「読書はじめ」と言って学者が考経を読み上げる行事などを行うことが定められていました。

一通りの儀式を終えると、乳児は実の母親ではなく乳母に育てられます。乳母とは名前の通り、母親代わりとして乳児の育児を行う役職です。貴族に仕える職業の一種で、女房の中でもとても地位の高い使用人として重要な存在でした。子供が成長すると同じ乳母が教育も担当しました。

これらの儀式は名前も聞き慣れなれず、古い時代の話と思われる方も多いかと思いますが、実は現在でも健在です。皇室では妊娠している女性に行われる「着帯の儀」や、「読書はじめ」が現在でも引き継がれ行われています。一般家庭で行うことはほとんどないですが、現在でも平安貴族たちの儀式は由緒正しいものとして大切に残されています。

このように、平安時代に産まれた子供たちは、出産する母親だけでなく、祈祷師や陰陽師、そして乳母などたくさんの人たちによって無事に育つことを願われながら、将来を期待されすくすくと成長していきました。