茶道・薫物(香道)の
歴史を探究する

平安貴族社会を支えた「女房」

平安貴族たちに仕えていた「女房(にょうぼう)」。『源氏物語』の中でも頻繁に登場するその名前は、貴族に仕える女官の役職のことです。彼女たちはいつ何時でも貴族のために働くキャリアウーマンでした。

「貴族に仕えて働く」と言うと、掃除や洗濯、食事の準備のような使用人としての仕事を想像されるかもしれません。しかし実際には、貴族社会の中で働く女性にも数多くの役職がと階級があり、使用人として働くのは女房ではなく「水仕女(みずしめ)」と言われる女性たちの役目でした。

では、女房がどんな仕事をしていたのでしょう。女房とは、貴族に仕えて働く女性の中で最も身分の高い役職です。平安時代においては、下流~中流貴族の娘が、より高い階級の貴族に女房として仕えていました。仕事内容としては、主に着替えの手伝いや調度品の管理、主人が女性の場合は長い髪を梳かすなどの細やかな身支度の手伝いといった、主人の体や私物に直接触れて整えるようなものが多かったとされています。

主人と直接コミュニケーションをとり身の回りの世話係のような仕事をしていた女房ですが、他にも重要な役目をたくさん担っていました。主人が時間を持て余しているようであればたわいもない雑談の相手をしたり物語の読み聞かせを行ったりなど、快適な時間を過ごせるように気を配るのも大事な仕事の一つだったとされています。

そして、最大の役割は、男性貴族と女性貴族が直接顔を合わせることが禁じられていた貴族社会の中で、主人が異性に綴った手紙を代わりに届けるというものでした。ときには伝言を預かるなど、貴族たちの恋愛が成就するようアシストまでしていたのです。

「貴族に仕える」という表現をすると家政婦や執事のような仕事を想像してしまいがちですが、女房たちもまた貴族の身分であり、より高い身分にある主人と密接に関わりながら貴族社会を支えていました。

教養があり貴族社会を内側から見ていた女房たちは、和歌や文学作品を多く残していることから「女房文学」というジャンルも存在します。紫式部や清少納言が代表的で、作家として有名な彼女たちは女房として働く傍ら創作活動をするという二足の草鞋を履いていたのです。