茶道・薫物(香道)の
歴史を探究する

絵巻物と人々の暮らし

絵巻物から、当時の人物が文字だけでなく色鮮やかな絵を用いて描いていることから、文書よりもリアリティある当時の様子を読み取ることができます。

巻物とは、紙や絹などを横方向につないで大きな面をつくり、終端に巻き軸を付けて軸を中心に巻き納めるようことができるようにした装丁形式によってつくられた書物や絵画作品のことです。その中でも絵画が中心となっている作品のことを特に絵巻物と呼び、その内容は物語や歴史的事件などさまざまです。描き方も絵画だけの作品や、情景を説明する文章が交互に書かれているなどさまざまですが、その形式上、横方向に連続的に描かれているという点では共通しています。

小説や和歌と大きく違うことは、絵が描かれている、さらには色を使って表現されているということです。カメラなど当然存在しない平安時代に、当時を生きていた人々が色を用いて描いた絵巻物は、当時の暮らしの様子などを紐解く貴重な資料でもあります。

絵巻物を見てみると、当時の人々の暮らしや催し物などの様子がよくわかります。

例えば、『源氏物語』を絵で表した『源氏物語絵巻』では、平安貴族たちの優雅な生活風景を伺うことができます。十二単などの平安装束が美しく描かれており、琴を演奏したり和歌を詠んだりしている貴族たちの華やかな様子を絵で見ることで、『源氏物語』の世界観をより深く理解することができます。一方で、『信貴山縁起絵巻(しぎさんえんぎえまき)』という作品では、庶民が畑仕事や藁と木の板でできた家で糸を紡ぐ作業をしている様子をうかがうことができます。

また、小説などの他の媒体では語られることの少ない、乳母の働いている様子や出産や子育ての様子が描かれている絵巻物も存在しています。絵巻物だからこそ描ける姿があったのでしょう。

絵巻物は、実際に起きた出来事を記録するために描かれているものもあれば、倉が空を飛んでいるような創作作品や、日本最古の漫画と呼ばれる『鳥獣人物戯画』など、さまざまな作品が存在しています。また、遠近法などの技法がしっかりと使われた写実的な作品もあれば、お世辞にも上手とは言えないような作品も残されています。いずれも当時の様子を知るための貴重な資料ではあるのですが、いつの時代も上手下手にかかわらず一生懸命絵を描く人がいたのだと思うと微笑ましい話ですね。